通勤、通学中に限界まで大便を我慢するとどうなるか
仕事に向かう途中、会社や学校に行く途中に急に大便を催してしまう事。
誰でもある事と思う。
その中でも僕は胃が貧弱なのか腸が軟弱なのかわからないが、とりわけ他人よりトイレに行くタイプだ。具体的には一日に平均3~4回はカレー色の不要物を便器の形をしたブラックホールにぶち込み続けている。
これが男性の平均的な回数なのか、それとも多いのか少ないのかは知らないが僕の周囲では皆2回くらいらしいので、結果的には僕が頂点であり、王だ。便王である。
必然的に日々会社や学校に向かう上で「あ、やばい。ウンコしたい」と思ってしまう回数も人より多いだろう。
世の中の人はどれくらいウンコを我慢したことがあるだろうか。
日本は遅刻に厳しい国だ。少し時間に遅れただけですぐさまペナルティを受けたりする。上司に、先生に、顧問に、先輩に、怒られる。何かよくわからないけど自分の性格を否定され、両親を殺した殺人者を目の前にしたかのように『グボォォオアアアアラアアアアアアア‼』って糾弾される。連絡をしてないなんて事になろうものならもうやばいだろう。
どんな神の雷が落ちてくるか分かったものじゃない。僕だったら白目を向いて泡を吹いき、冷や汗をかきながらひきつけを起こした上で恐怖と雷による震えを起こし、意味の分からないうめき声を『うべぇぁえふぃfりfjrhしおおいいおへいhjどddoooooo』と呪文のように呟き続けることは間違いない。
だから社会人や学生はそうならないように朝頑張って早起きをし、朝ご飯をむしゃむしゃと貪り半目になりながら会社や学校に向かうのだ。
そうやって日本の朝は回っている。
しかしここでは常に問題が発生している。
朝の社会人と学生最大の敵、ウンコの出現である。
朝ウンコである。あの朝ウンコが立ち上がってくるのだ。
更にその中でも特に電車に出現してくるウンコはヤバい。
人類産朝型系電車ウンコ。こいつだ。
こいつに僕がどれだけ苦しめられたか。何回もこいつのせいで学校に遅刻しそうになったし、普通に遅刻したりした。しかも連絡してもウンコなんて理由にならない。唯一の盾も奴には通用しないのだ。
ダメだった。ソロではどうにもならない。一人では、独学では奴を攻略することは非常に難しかった。
ならどうするべきなのか。
僕は考えた。
あらゆる可能性と未来を考え、そして一つの結論に達したのだ。
世界ウンコ撲滅戦線への参戦。これしかない。
ここなら対ウンコ用のマニュアルがそろっている。同じ戦線の人間と仲間になり様々な事が共有できると思った。ウンコに対抗できる唯一のレジスタンなのだ。
そうと決まれば僕はすぐに申請を出し、戦線に参加した。
まずは訓練からだった。
訓練から始まり、マニュアルを覚え、同士や教官と訓練し、吸収したものを実践で使用し、そこでさらに技を培っていく。
戦いだった。
戦いの毎日だった。
人類に蔓延するこの問題を少しでも軽減させるべく、自分のために、世界のために最前線で戦い続けた。
そして戦線に参入して一年後、とうとう最大の難局が僕の前に立ちはだかった。
戦場そのものは電車ではあったのだが、その日は家を出る時点で少し腹の調子が悪かった。何となく悪い予感はしていたのだが、少しだけだった上に電車に乗っている間ぐらいなら我慢できると踏んでしまったのだ。
これがミスだった。
判断ミス。
戦線に所属する戦士として一年、僕も中堅の領域に入り始め凡ミスそのものはなくなってきたことによる驕りが生んだ、まぎれもないミスだった。
電車に乗ってから二分程して、突如として強烈な便意が僕の下腹部を襲い始めた。
『くっ…………やはり来たか……。』
この時点で僕は早くも己のミスに気づいてしまったが、しかし時間は戻らない。
経験者は理解していると思うが、敵の戦術は基本的にヒット&アウェイである。
数分こちらを襲い続けた後、波が下がるようにスーッと引いていき、こちらの反応を伺ってくる。そうしてしばらく経って襲撃が終わったと我々が安心してきた所でまた奇襲をかけてくる。
これの繰り返しである。
この時も同じだった。もちろん基本故に戦線によるマニュアルは存在していたが、しかしこのとき問題だったのは電車に乗ってすぐに襲撃をかけられた事である。乗り換えで降りるまでに電車に乗っている時間は15分ほど。
つまりおよそ13分僕はウンコと戦っていた。
時間では長いとは言えないかもしれないが、この時は敵の攻撃力が相当に高かった。僕は見た目は無表情を装いながら、しかし冷や汗を大量にかいていた。
かなりの苦戦を強いられた。
ここまでの敵と戦うのは久しぶりであったので、僕自身の油断による隙も多かったように思う。
ともあれ結果的には僕は無事電車を降りることができた。
危なかった。
かいていた汗をぬぐいながら安堵のため息をつく。
倒すことは出来なかったが一時的な撃退には成功したのだ。
これで駅のトイレでトドメを刺せる。そう思った。良かったと、そう思っていた。
甘かった、
甘かったのだ、
僕はまだ油断していた。
認識が甘かった。目の前の事しか見ずに未来に目を向けずにいた、そんな僕の甘さ。
……………………………………………。
トイレが人で溢れ返っていた。
よく考えれば当然だった。
朝の電車など満員状態が普通。であるなら当然駅のトイレも満員であってしかるべきなのだ。
なんという、
なんという事だ。
なぜこれを予想できなかったのか。
絶望した。
終わりだと思った。
ここで僕はもう終わりなのかと、諦めの感情が僕の心を支配した。
もうだめなのかと。ウンコに負けるのかと。
敗北するのかと、思った。
いや、
まだだ、
まだ挽回できる。
敗北などしていない、こんなものは少し虚を突かれただけだ。
トイレに入れないなら別の駅のトイレを使えばいいだけじゃないか。
勝ちの目はある。
やってやる。
そうと決めた途端僕はトイレに背を向け、乗り換え先のホームに歩き始めた。
当然既に限界は近い。冷や汗は大量、若干体は震えており、めまいも起こり始めてきた。
コンディションは最悪である。
しかし僕の意思と肛門括約筋はまだ諦めていない。その筋肉をかつてなく律動させ、敵の侵略によって蠕動運動を起こす大腸の猛攻を必死に防いでいる。
そうだ。
これが決壊する前にどうにかすればいいだけだ。それだけだ。簡単だ。やってやろうではないか。
そうして僕は一歩を踏み出す。
勝利への一歩を。
負けないために。
勝つために。
逆境を向かいうつために、戦い続ける。
こちら世界ウンコ撲滅戦線No.1265、本部へ。
戦闘結果を報告致します。
殲滅レベル8を無事撃退致しました。
詳細は報告書にて。以上。