若者の痛い所を突く「確かに」

若者のあるあるや自分の体験談をある意味で真正面から、とてつもなく爆発的に盛って書いていくブログ。途中から作者自身も何を書いているのかわからなくなる。頭を空っぽにすると辛うじて内容が理解できます。

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい」と一日中ずっと言い続けたらどうなるのか

東京ビッグサイトの数あるエスカレーターの一つの前に、メガホン片手に永遠に同じようなセリフを数百人のモブキャラに向かって叫び続けている、今すぐニートになりそうな外見をした男を見たことがあるだろうか。だとしたらそれは驚異的な確実性をもって僕だと断定できるであろう。

 

 

僕は派遣に来ていた。イベントの。東京ビッグサイトで行われる。色んな会社の社員やお客さんが所狭しと存在しているかなりの規模のイベントに金を稼ぎに来ていた。

 

 

よくあるイベント系派遣というやつである。

 

 

当時の僕は全く金を持ってなかった。アルバイトはしていたのだが全く金の放出が追い付かず、ヤバいマズイダメだどっかで金を手に入れないと、、、、、、、死ぬ!!と考えた結果、

 

 

 

単発で派遣に入ることにした。

 

 

友達に結構良いと言われてたイベント系に思い切っていく事にしたのだ。

 

 

 

そんなわけで会社の制服の上着ブフォォァア!郷ひろみの如く着た所を無事誰にも見られなかったところで、僕の担当は結構な距離のあるエスカレーターになった。

 

 

 

………………。

 

 

 

エスカレーター?

 

 

何するん?

 

 

 

警備?

 

 

いるじゃん。そこに。

 

 

JCくらいの警備員の恰好した可愛いらしいガードマンがいるよ。

 

 

……………

 

 

 

可愛い、、、。

 

 

 

と思ったら僕の仕事はどうやら警備ではなく、客が大量に攻め込むせいで渋滞するエスカレーターをうまく捌いて、スムーズに動けるようにする事らしかった。

 

 

三列あるエスカレーターの内、一つは上の階から降りてくる人用、残りの二つが上から上がっていくエスカレーターだったのだが、ここで客の性質に合わせて二つに分類してエスカレーターを登らせていく必要があった。

 

 

 

つまり、

『チケットで来た客は左側に、付き人の場合は右側のエスカレーターに乗せる』

 

 

である。

 

 

付き人の意味がよくわからなかったが、要するにチケットで来た客と一緒に来ている人ということだ。

 

 

こんな感じでエスカレーター担当みたいな場所がいくつか配置されており、一か所につき三人で回していく手はずになっていた。

 

 

 

時間は大体10時から6時とか7時辺りまで。休憩をはさみながらひたすらローテーションで回し続けるといった感じだ。

 

 

 

 

とてつもない数の客が来るため、こっちが地声で並び方を注意しても当然聞こえない。なのでやたらと高性能なメガホンを受け取りそれを使って仕事をする訳だが、それ以前の問題が発生してしまった。

 

 

 

 

チーフ的立場のベテランの社員さんに「こんな感じで言えばいいよー」と、台本のセリフみたいに教えられたのでその通りにして周囲に言えばいいだけなのだが、僕はここで気づいてしまった。

 

 

 

 

 

あ、

 

 

 

 

やべ、

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

陰キャだった。

 

 

 

 

こんな広い所、人もいっぱいいる中でメガホン持って大声出すなんて行動、僕にはキツ過ぎるという事に今更気づいてしまった。

 

 

 

なんせ東京ビッグサイト。天下無敵の東京ビッグサイトである。その広大さと言ったらもはやただの通路でさえめちゃくちゃ広い。半端ない、常識が外れたデカさである。

 

 

 

しかも仕事が始まってからは人もまだちらほらしかいなかった。人が大勢いる時より余計にやりずらいのだ。

 

 

 

 

なんてことだ。

 

 

 

 

まさかこんな事態が起こるとは、

 

 

 

 

 

 

想定していなかった。

 

 

 

 

いや、ホントに気まずいんだけど。どうしてくれるん?

 

 

助けて、誰かどうにかして。

 

 

 

初心者には意外ときついよ、ホント。

 

 

 

緊張しながらもとりあえず声を出す。

 

あ、噛んだ。最初の一言噛んだ。恥ずい、死にたい。気を取り直せずもう一回。声小さい、ヤバい。あ、チーフにアドバイスされた。痛い。もはやその優しさが痛い。もう一回。まだ小さい。うわ変に客がこっち見てくるやめて。俺のことは気にしないで。置物だと認識して。モアイ像的な、余計見るか。じゃあだめだ。慣れるんだ。それしかないもはや。言ってるセリフはほぼ同じだ。この状況に慣れればいけるはずなんだ。さあ、声を出すんだ!!!いくぞオラァァァ!!!!!

 

 

すうぅぅ~~~~~~~「お一人のおかきゃ様は左側のエスッレーターをご利用下さいぃぃ!!」噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~二時間後~~~~~

 

 

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「お付きのお客様は右側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「お付きのお客様は右側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「お手洗いの場所ですか?この通路をまっすぐ行った突き当りを左に曲がった所にございます」

「お付きのお客様は右側のエスカレーターをご利用下さい!!」

「チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい!!」

 

 

 

僕はプロになっていた。プロフェッショナルになっていた。

 

もうほぼ噛む事などない。たまに噛んでも恥ずかしいとすら思わない。そりゃこんな叫んでたら何回か噛むよ。人間だし、当たり前じゃん。

 

 

人も無事渋滞するほどに来はじめ、僕の視界には数百人の人間が蟻の行列のように並んでるのが見えている。

 

 

その人たちに向けてひたすらにメガホンで叫び続ける。もうなんか楽しくなっている自分がいた。叫ぶ言葉の単語一つ一つに意識を向けることができる。

 

 

 

自由自在だ。

 

 

『チケットをお持ちのお客様は左側のエスカレーターをご利用下さい』

 

 

このセリフはすでに僕のものだった。完全に僕の掌に堕ちた。支配下になったのだ。

 

 

掌、そして口の中で転がされるしかない哀れな存在。あれほどの強敵だった言葉に、僕はもう負けることはない。使いこなすことができる。

 

 

 

改造も自在だった。コンビニの「らっしゃっせー」並みの略し方をしていた。

 

「チケッ持ちーん客様はんだり側のエッカータを利用下さい!」ぐらいに略しまくってた。だってこれで通用するんだもん。

 

 

 

予想外にトイレの場所など聞かれる事もあるが、この時の僕はその程度では動揺しない。滑らかに教えることができる。

 

 

 

そう。

 

 

 

そうなのだ。

 

 

 

これが慣れ、

 

 

 

学習の力。

 

 

 

 

 

人類とは知ることで成長することができるのだ。

 

 

自分を知り、人を知り、周囲を知り、世界を知る。それが人間。

 

 

 

例えどんなにパラメーターが低い人でも、頑張れば、知れば、己の力を上げることができる。

 

 

僕はこの派遣を通してその事実を知ることができた。

世界の真実に気づくことができたのだ。

 

金より大事な、知識という、財産を

 

 

手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オチとかねぇよ!!